ANMELDEN夢を見ているのは、彼女だけじゃなかった——
冬休みが明けて、始業式の日。僕たちは数日ぶりに顔を合わせた。
教室では休みの間の話題で賑わっていた。誰と誰が初詣に行ったか、お年玉がいくらだったか。普段通りの空気だった。
ただ、
(今日が、発表だ……)
夢を見ているのは、彼女だけじゃなかった—— 冬休みが明けて、始業式の日。僕たちは数日ぶりに顔を合わせた。 教室では休みの間の話題で賑わっていた。誰と誰が初詣に行ったか、お年玉がいくらだったか。普段通りの空気だった。 ただ、沙友里と神楽さんだけは少し違う。二人で向かい合っているが、何も話さない。時々窓の外を見ていた。(今日が、発表だ……) 僕も、同じように落ち着かない日だった。 始業式が終わり、今日はこれだけで終了で帰宅になる。 帰りのホームルームで、担任がプリントを配り終えた後、付け加えるように言った。「ダンス部員は、放課後レッスン場へ集合してください」 教室がざわついた。「本日、オーディション結果の発表がありますが、見学は自由とのことです。興味のある人は、見に行ってもいいですよ」
願うことと、決意すること——それは、似ているようで違う。 冬休み中の十二月末。校内オーディションの面談当日。僕たちは、喫茶ひかりで沙友里と神楽さんを待っていた。「遅いな……」 守は、メニューをもう三回は見返していた。「面談、長引いているのかな」 黒崎くんが、スマホを確認した。「沙友里ちゃんたち、緊張してたもんねー」 高瀬さんは、ポテトをつまみつつ言った。 それから、さらに一時間ほど経った頃、ようやくドアベルが鳴った。「みんな、お待たせ」 神楽さんが震える声で、駆け込んでくる。その後ろに沙友里もいた。
私からあなたへ、あげられるものは何だろう——「沙友里、早く寝なさいよ」「……分かってる」 校内オーディションの面談を、明日に控えた夜。ママにそう言われても、寝れないものは寝れない。 机の上には、直哉からもらったスケッチブック。何度も開いた最後のページには、アイドルになった私が描かれている。 ネックレスに触れながら、私はじっと見つめた。 眠れない夜には、よく直哉とのことを思い出していた。 最初に気になったのは——直哉の手だった。 入学してすぐの頃、窓際の席でいつも絵を描いていた。(キレイな……手だな) その手で鉛筆を持ち、迷いなく動く。何を描いているのか分からなかった
君と過ごす誕生日が、こんなに嬉しいなんて知らなかった—— 十二月に入り、一つのニュースが僕たちの学年に流れた。 芸能コースが創立される。ダンス部のメンバーを中心に、アイドルグループを育成するため、校内オーディションが行われる。 ただし、外部のオーディション活動は原則禁止。すでに芸能事務所に所属している生徒は対象外。 学校主導でのアイドルプロデュース——前例のない試みだった。「すげぇ、学校だな」 守の感想に、僕も頷くしかなかった。「普通の学校じゃないね」 黒崎くんの目は、セリフとは裏腹に好奇な光を讃えていた。 沙友里はプリントをじっと見つめていた。少し指先が落ち着かない。 隣で神楽さんも目を見開いていた。
誰かの夢を描くことは——その人の未来を信じることだと知った。 あの夏の日から、僕たちは六人で集まることが増えた。みんなでプールに行き、夏休みの終わりには、黒崎くんの家に集まり協力して宿題を終わらせたりもした。 夏が終わっても、一緒にいることが当たり前のようになっていた。 体育祭では、守、神楽さん、黒崎くんが活躍し、合唱コンクールの練習では沙友里と高瀬さんが一際輝いていた。 そして、十月の文化祭。 僕たちのクラスでは、レトロ喫茶をすることになった。僕は内装担当になり、自分の絵を飾らせてもらったりと、みんな忙しく働いていた。 そして何より——十月十四日。沙友里の誕生日。 授業中も、漫研の活動中も、帰り道も。気づくとその日のことばかりを考えていた。「誕生日プレゼントって、何がいいと思う?」 昼休みの中庭。お弁当をつつきながら
あの日の景色が、まだ僕の目に焼きついている—— 翌朝、男子部屋に差し込む光で目が覚めた。 隣では守がいびきをかいて寝ている。黒崎くんはすでに起きていて、ベランダで窓の外を見ていた。「桐谷、おはよう。よく寝れた?」「おはよう……守のいびきで、あまり……」 黒崎くんが苦笑いした。「けど、楽しかったね。みんないい奴だよ」「黒崎くんこそ、色々ありがとう」「また、誘ってくれるかい?」「もちろんだよ」 その時、部屋の中で僕の携帯が鳴った。『直哉、おはよー、朝の散歩行こっ!』「沙友里は朝から元気だね」「うんっ! 私、朝強いから」 僕たちは二人でホテルを抜け出し、朝の海岸を手を繋ぎながら散歩していた。朝の心地よい風が、沙友里の髪をなびかせている。「朝の散歩は気持ちがいいね」 空いている手で髪を抑えながら、沙友里が言った。「神楽さんたちは?」「梢はまだ寝てたよ、麻衣は準備中」 犬を散歩する女性とジョギングをする男性が、僕たちの横を通り過ぎた。「みんなと、こんな風に過ごせるなんて思ってなかった」「麻衣も梢も、いい子でしょ?」「うん、みんなの意外な一面も知れたしね」 一つ一つの場面を思い出すと、口元が緩みそうになる。「みんなのこと、大好きだよ」「ふふっ、良かった」 沙友里がコロコロと笑った。「ねぇ……麻衣も、梢も可愛いでしょ?」「うん、すごく可愛いよ」「……」(あ、あれ……) 繋いでる手に力が込められていた。即答したことを少し後悔する。「ちょっとだけ……痛いかな……」「——知らない」 少し膨れた頬を見て、思わず微笑んでしまった。それを見た沙友里の頬がさらに膨れた。(沙友里が一番……だけどね)「おーい、お二人さーん」 防波堤の上から、僕たちを呼ぶ声がした。「朝飯の時間だぞー」 静かな海岸に、守の大声が響き渡る。その声だけが浮いていて、僕たちは顔を見合わせて笑った。 ホテルに戻ると、みんながお腹を空かせて待っていた。ホテルの朝食バイキングを利用できるようで、みんなの顔が輝いていた。「ここのホテル、バイキングが美味しいって評判なのよ」「えっ、マジで?」「まさか、黒崎くん家のホテルだとは思わなかったけど」「いや
第五幕 伸ばせなかった手 最初に見たのは、ニュースでも記事でもなかった。 SNSから流れてくる噂だった。写真はぼやけていて、夜の街で、二人並んで歩いて
第四幕 距離のかたち 春が終わり、夏が来て、気づけば季節がひとつ進んでいた。高校一年の終わりが近づく頃には、沙友里の生活は、完全にアイドルのそれになっていた。 レッスン、収録、イベント。
第三幕 デビュー 高校に入って、まだ春の匂いが残っている頃。新しい制服にも、ようやく慣れ始めたばかりの時期。 グループとしてのデビューが決まったと聞かされたのは、いつもの帰り道だった。
第二幕 レッスンの日々 それからの日々は、立ち止まる暇もなく流れていった。 沙友里は本格的なレッスンが始まり、徐々に忙しくなっていく。レッスンがある日は、スタジオまでの送迎だけになった。それ以上は、何もできなかったし、しなかった。







